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コラム

そもそもLLM(大規模言語モデル)ってなに? ──『検索』から『質問』へ変わる時代のAIの頭脳

① AIが当たり前になった今、意外と整理されていないこと

いまや「ChatGPT」や「Gemini」などの生成AIは、資料作成や調査、文章の下書きなどに日常的に使われるようになり、もはや特別なテクノロジーではなく、私たちの仕事や生活の中に自然に溶け込んでいます。
一方で、「AIって、すごいデータベースのようなものを参照しているのでは?」となんとなく考えている方も少なくありません。
確かにそう思える場面もありますが、実際のAIの仕組みはそれとは少し異なります。
では、AIはどのように“言葉を理解して”答えを導いているのでしょうか。

②「AI=データベース」という誤解

質問を投げてすぐに答えが返ってくる。この動作だけを見ると、AIを辞書や知識ベースのように思ってしまうのは自然です。
しかし、実際の大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は、情報をそのまま保存して検索しているわけではありません。
テキストデータから「言葉同士がどうつながるか」「文脈の中でどのように使われるか」を学習し、次に来る言葉を確率的に予測して生成する仕組みなのです。

③ LLMは「言葉」ではなく「数列」で世界を理解している

LLMが扱う最小単位は「トークン」と呼ばれる言葉の断片です。
たとえば、「豚肉を200g入れます」という文を例にとると、AIの仕組みでは次のように扱われます。

「豚」/「肉」/「を」/「200」/「g」/「入れ」/「ます」

それぞれに固有の識別数値(トークンID)が割り当てられます。
AIは何十億件もの文章データをもとに、
「『豚』の次に『肉』が続く確率が高い」
「『入れます』の前に数字+単位が来ることが多い」
といった言葉の並び(確率分布)を学びます。
つまり、AIは単語を覚えているのではなく、トークンID同士の関係性を数値で学び、最も自然な並びを“予測”して言葉に戻しているのです。
これが生成AIの動作原理です。

④ Transformerとパラメータ ── AIが“文脈”を読む仕組み

この「文脈のつながり」を学習・把握するために設計された構造が、Transformer(トランスフォーマー)です。
Transformerは、文章中の「どの単語がどの単語にどれだけ影響を与えているか」を“注意(attention)”という計算で数値化します。
この数値群がパラメータ(重み)と呼ばれるもので、LLMの学習によって数億~数千億単位で最適化されていきます。

  • Transformer:文脈を読むための構造
  • パラメータ:その構造の中で学習された「言葉の関係性」の数値化

AIの“知識”は、丸暗記ではなく、このパラメータに刻まれた「言葉の関係性」の蓄積なのです。

⑤ 得意なことと苦手なこと(ハルシネーションの正体)

LLMには明確な限界もあります。

得意なこと

  • 文脈を踏まえた自然な文章生成
  • 複数情報を統合・要約
  • 質問の意図をくみ取って応答する

苦手なこと

  • 最新情報・数値・出典が正確かどうかの保証
  • 存在しない事実をそれらしく出してしまうこと(ハルシネーション)
  • 「根拠」として引用できる情報を常に提示すること

ハルシネーションとは、AIが“存在しない事実”を“もっともらしく”生成してしまう現象です。
これは、AIが「事実を参照している」わけではなく、「最も自然そうな答え」を確率的に選び出しているために起こります。
言い換えれば、AIは“正しさを検証する力”を持っていないのです。

⑥ RAG(検索拡張生成)──AIが外部情報と“つながる”仕組み

この限界を補うために活用されているのが、RAG(Retrieval-Augmented Generation)です。
これは、生成AIが自らの内部データだけで回答を作るのではなく、外部の信頼できる情報源を参照しながら回答を生成する仕組みです。
例えば、企業の製品マニュアルやFAQをAIが参照できる設計にすれば、
「製品Aの保証期間を教えて」という質問に対し、AIはその資料を検索・要約して根拠ある回答を返せるようになります。
基本の流れは次の通りです。

  1. 外部データを検索(Retrieval)
  2. 関連部分をAIに読み込ませる(Augmented)
  3. 文脈に沿って回答を生成(Generation)

RAGの活用によって、LLM単体では難しかった“根拠のある回答”の生成が現実的になります。

⑦ LLMがWebサイトをどう“読む”のか(AIOとの接続)

生成AIはWebページを丸ごと暗記しているわけではありません。
HTML構造、見出し階層、リンク構成、テキストの文脈などを解析し、「意味のまとまり」として理解しています。
そのため、AIに正しく内容を理解してもらうためには以下の設計が重要です。

  • 見出し(H1~H3)やパンくずリストを整理し、ページ構造を明確にする
  • ページ冒頭で「何を説明するか」を明示し、曖昧な表現を避ける
  • 重要なメッセージを画像内文字だけでなくHTMLテキストとして記述し、画像にはAlt属性で補足を入れる
  • 更新日を明記し、内容が古くなっていないか定期的に確認・更新する

これらの設計は、AIにも人にも伝わるコンテンツ構成を意味し、つまり「AI最適化(AIO)」として捉えられます。

⑧ 2025年、AIを取り巻く現実とWeb運用のこれから

ここ数年で、生成AIの活用は「試してみる段階」から「実務に組み込む段階」に移行しました。
社内の問い合わせ対応、製品情報整理、資料作成など、業務の中核として活用されている企業が増えています。
この流れの中で重要なのは、AIがどこから情報を読み取り、どのような形で使うかを理解することです。

生成AIが引用や要約で利用するのは、企業サイトやオウンドメディアの情報が「参照材料」として扱われることが増えているという事実です。
つまり、これからのWebサイトは「AIに見つけられる」だけでなく、「AIに理解され、正しく引用されるサイト」である必要があります。
そのために欠かせないのが、先に説明した構造化・明示化・鮮度管理の三つです。

  • 構造化:見出しやHTML構造を整理して、AIにも人にも意味が伝わる形にする
  • 明示化:ページの意図や文脈を冒頭で明らかにし、曖昧な表現を減らす
  • 鮮度管理:更新日を設け、古くなった情報を定期的に見直す

そして重要なのは、これらは決して「AIだけに効く魔法」ではありません。
むしろ、これまで私たちが長年取り組んできた『正しいSEOの原則』の延長線上にあります。

構造化は、検索エンジンに正しくクロール・インデックスされるための基本設計でした。
明示化は、ユーザーと検索エンジンの双方に向けた情報設計そのものでした。
鮮度管理は、信頼性と最新性の評価を高めるSEOの重要要素です。

つまり、AI時代のAIOも、根幹は「ユーザーにわかりやすく」「機械にも理解しやすく」という共通理念の上に成り立っています。
AI最適化とは、SEOの本質を次のステージに拡張するアプローチなのです。

⑨ AIに“選ばれる”ためではなく、人に“理解される”情報設計へ

大規模言語モデル(LLM)は人間のように自然な文章を生成しますが、実際にはトークン、Transformer、パラメータといった数値構造の世界で動いています。
そのため、AIが正しく理解し、信頼される情報を引用できるようにするには、人間側が情報構造と文脈を整理することが不可欠です。
「AI最適化(AIO)」は、単に「AIに拾われる」ための手法ではなく、AIにも人にも、正確に理解されるWeb設計を実現することです。
それこそが、今後の情報発信において価値を生むアプローチです。